三田屋記念日ストーリー

私が店長になりたての頃、そのお客さまと出会いました。
その方は当店開店当初からご贔屓にして頂いて、いつもご夫婦で来店されていました。
が、少々気難しいタイプの方で・・・、ある日のご来店の際も、
お客さま:「だから、その言い方が気にくわないんだよ。それでもプロか?!」
スタッフ:「申し訳ありません」
お客さま:「三田屋は、その程度のサービスしかできないのか?! それじゃ三流以下だな!!」

ホールスタッフの対応に、これまでもしばしば、ご注意を頂く事はあったのですが、その日はいつもより、お言葉が厳しいと感じた私はお客さまの元へ。

店長:「大変失礼いたしました。何かお気に召さない事がございましたでしょうか?」
お客さま:「誰だ、お前は? はー、新しい店長か。何が気に入らなかったのかさえ分からないなんて店長失格だ!」

その言葉に当時、未熟だった私は、思わず、
店長:「そこまで言われる筋合いはありません。お代は入りませんので、お引き取りください!」
と決して、言ってはならない言葉をお客さまに吐いてしまいました。
するとお客さまは、私の失礼な言葉に言い返される事もなく静かに、そして黙ってお勘定をされ、お店を後にされました。
「しまった! なんて事をしてしまったんだ!!」と思っても後の祭り。これであのお客さまは二度と来店される事はあるまい。でも、あそこまで言われたら仕方がない。との時、私はそう思う様にしたのでした。

それから二週間後。

スタッフ:「あのご夫婦が来られています」
驚きました。あれほどの失礼があったにも関わらず、また、あのお客さまはご夫婦でご来店なさったのです。 そして、いつものテーブルにお座わりになり、いつものメニューを頼まれ、その日は静かに召し上がられていました。
そのお姿をバックヤードから見た私は、正直「面倒だな」という気持ちを持ったまま、しかし、前回のお詫びをしなければならないと、お二人のテーブへ向かいました。

店長:「先日は本当に申し訳ございませんでした」
すると、その旦那様は、静かにこう話し始められました。
お客さま:「今日も美味しいね。ここのステーキはいつも変わらないから好きなんだ」
店長:「あっ、ありがとうございます」
お客さま:「僕はこの店が開店してからの客だ。だから歴代の店長を見てきた。もちろん店長だけじゃなく、スタッフの事も。 そして新人としてホール担当をしていた時代の君も見ていたよ。そんな君がある日、店長になった事を知った時は嬉しかった。大げさかも知れないけど我が子の成長を見る様でもあった。しかし、店長になってからの君はなんとも自信なさ気だった。この子大丈夫かな?とこっちまで不安になった。だから、君に一人前になってもらわなければと、三田屋の一常連客として、あんな下手芝居をさせてもらったんだ」
店長:「・・・・」
お客さま:「でも、あの日は、かなりやりすぎた。 そして、君から、もう来るなと言われた時、スタッフを必死で守ろうとする君の気持ちが伝わってきた。それを見て、ちょっとは店長らしくなったなーと思ったよ」

その言葉を聞いて、私はハッとしたのを今でもはっきりと憶えています。 確かに当時は店長になりたてで、どうしていいか分からず、社長からは叱られる毎日。その姿をずっと心配してご覧になっていたのが、このお客さまだったのかと、本当に恥ずかしくなり、と同時に、お客さまの三田屋スタッフに対する愛情を痛感させて頂く事になった私にとって、三田屋にとっても大切な出来事でした。

そんな、あの日こそ、私にとって「店長としての自信と責任をお客さまから教えて頂いた記念日」です。

三田屋、記念日ストーリー